理想のひと




ずっと強い人間のように振る舞っていたら
皆はあたしを強い人間だと考えた
たぶん、あたしは本当に強い人間なんだろう きっと


一人でいるのはとても楽だ
誰もあたしについての幻想を抱かないからね
一人でいたら独り立ちした人間だと思われた
誰も入り込んでこないというのは、気楽だけれど だけど


任務は好きだ 任務に追われてるあたしが
くのいちのテマリは、一番、あたしらしいあたし
強くて余裕の笑顔を浮かべる、頼りになるあたし だろ?


さあ そんなあたしに畏怖を抱いて
居心地のいい距離でそっと囲んでよ
傷つかない距離だけずっと保ってよ


『テマリ』


だけどその距離を縮めたいとお前は言う
言葉にはしなくたって充分に語っている


だから条件をあげる


たとえあたしのことを弱い女だと知ってしまっても
決して口には出さないで 哀れんで見ないで
それくらいわかってるって顔しながらあたしの隣に立って


本当に優しいのなら、あたしに優しくしないで
知らないふりをして、あたしに手綱をよこして


父様のように、弟のように
静かに深くあたしを愛して


『……テマリ』


「甘えていい」なんて絶対に言わない 
だけどあたしに甘えない
寄りかからずに歩き続けられる そんな男でいて


『……なぁ、一本吸う?』
『タバコ、嫌い』
『美味い時もあるぜ』
『ない』
『味が美味いっつーより、吸ってる時間が美味いんだけどな』
『理屈はいらないよ。吸わない主義なんだってば』
『なら、間接喫煙とか』
『…………阿呆!』
『お』
『……なに?』
『やっと笑った、今日』
『え』
『じゃ、気分よくなったとこで昼寝しに行く?』
『勝手に決めないでよ』
『けど、あんただって別にないだろ、予定』
『ある!』
『なに』
『甘栗特盛クリームパフェが今週末限定だった。甘栗甘で』
『……オレも?』
『別に無理にとは言わないけど?』
『へーへー行きますよ、行きますって、一緒に』 『よし、そうと決まればすぐ行くよ!早く』
『ちょい待てってば』
『3秒以内!』



時々思うんだ


それは地なのか、それとも頭を捻って考えだした結果なのかって
だけど結局のところ、どっちだってよかったんだ


あたしが弱さにも強さにも溺れないままで
飾らない顔をして笑えるのなら、本当にどっちだってよかった


だから…………いつかきっと、礼を言うよ


『…………何、じっと見てんだよ?』
『んー、別に』
『何かついてる?オレの顔』
『いつも通りの阿呆面が乗っかってるよ』
『はいはい』


けど、それでも


『つーか、言いたいことありそうなツラしてんですけど?』
『誰が』
『あんたが。さっきから、ちらちらオレの顔見てさ』
『気のせいだよ』
『どーかね』
『自意識過剰じゃないの?』
『いや、別にいーんだけど』


その言葉、口に出すのをとっておいてもいいかなと思う
あんたと、あたしが離ればなれになるだろうその時まで





……あたしか、あんたがどちらかの最期を看取る
ひょっとしたらずっと未来にある、その瞬間まで。



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あとがき

erpさまに捧げた作品です。